[解説]
「パンクの女王」の別名を持つ、ロンドンのパンクファッションの火付け役となったブランドです。「アンチモード」を代表する女性デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)氏は今では国から勲章を受けるほど、英国屈指の大物デザイナーとなりました。王冠と地球を組み合わせた「オーブ(Orb)」マークも有名です。
パンクとオートクチュールという両極端をミックスし、そのきわどいバランスを成り立たせているところに、ウエストウッド氏の凄さがあります。1970年代にパンクファッションを世に広めた功績で知られていますが、近年はコルセットやボンネット(後頭部からかぶる、あご紐付きの帽子)といったビクトリア朝の「正統派」ファッションを採り入れる試みを見せています。ストリートファッションがモードとして定着する中、あえて「古き良き時代」に回帰するところに、パンク仕込みの反骨精神がうかがえます。
71年に英国のパンクロックの象徴とされたバンド、セックス・ピストルズのマネジャー、マルコム・マクラレン氏と共同でブティックを開いたのが始まりです。以後、一貫してアバンギャルド路線を突き進んできました。
セクシーなモチーフを上手にモードに採り入れているのが、「ヴィヴィアン・ウエストウッド」の魅力の一つです。ガーターベルト、アンダースカートなどのアイテムを好んで使っています。男性器を模したボタンを作ったこともあります。
ボンデージファッションの先駆者でもあります。ボンデージと言えば、「ジャン・ポール・ゴルチエ」が有名ですが、「ヴィヴィアン・ウエストウッド」はかなり早くからボンデージを意識した作品を手がけていました。セックス・ピストルズも両足を縛られたパンツをはいていました。極端に歩きにくいそのコスチュームは、彼らが攻撃する、古くさい管理社会そのものの象徴だったようです。
タータンチェックのキルトスカートも定番アイテムの一つ。タータンは本来、長い歴史を持つ家柄の証ですが、ウエストウッド氏は自分でオリジナルのタータン柄「Mac Andreas」を考案し、しかもタータン柄を認定する協会に公式に認めさせてしまいました。そのアレンジも大胆で、独自の英国の貴族の家柄を象徴するタータンチェックをあえて超ミニスカートに仕立ててしまう辺りに、階級制度を茶化してやろうとするデザイナーの狙いが透けて見えます。
2004年4〜7月、ロンドンの格式あるミュージアム「ヴィクトリア&アルバート美術館」で「ヴィヴィアン・ウエストウッド展」が開かれました。70年代から今日までの作品を見て、デビューから30年以上を経ても「我が道を行く」その孤高のスタイルに、あらためて強い尊敬の念を抱きました。
●ブランドデータ
[本国]
英国(ロンドン)
[経営・日本での展開]
日本では伊藤忠商事が1994年からマスターライセンシーとなっている。2001年に伊藤忠傘下に入ったアパレル商社のオリゾンティがレディスウエア「ヴィヴィアン・ウエストウッド・ゴールドレーベル」「ヴィヴィアン・ウエストウッド・レッドレーベル」の販売を手がけている。2005年春夏からはレディスのカジュアルライン「ヴィヴィアン・ウエストウッド・アングロマニア(Anglomania)」もスタート。
[歴史]
ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)氏は1941年、英国ダービーシャー州で「ヴィヴィアン・イザベル・スウェア(Vivienne Isabel Swire)」として生まれた。62年、最初の夫、デレク・ウエストウッド(Derek Westwood)氏と結婚。小学校の教師となる。
離婚後、パンクロックバンド「セックス・ピストルズ」の仕掛人として知られるマルコム・マクラレン(Malcolm McLaren)氏を公私ともにパートナーとする。71年、2人でロンドンに初のショップ「レット・イット・ロック(Let It Rock)」を開く。この店はその後、、「Too Fast To Live, Too Young To Die」「SEX」「セディショナリーズ(Seditionaries、「暴動を扇動する者」という意味)」と名前を変え、現在の「ワールズ・エンド(World's End)」に落ち着いた。
70年代、「God Save The Queen(英国国歌の題名)」とプリントしたTシャツやボンテージパンツなどを生み出し、「パンクの女王」と呼ばれる。82―83年秋冬パリ・コレクションに初参加。英国人デザイナーのパリコレ参加は、ミニスカートの創始者、マリー・クワント以来、2人目。80年代前半には海賊や魔女をモチーフにしたファッションで高い評価を得る。
90、91年と連続して「英国ファッションデザイナー年間賞(British Designer Of the Year)」を受賞した。92年にO.B.E.勲章(大英帝国勲章、Officer of the British Empire)を受章。同勲章はサッカーのデビッド・ベッカム、ファンタジー小説『ハリー・ポッター』シリーズの著者、J・K・ローリング氏、ミュージシャンのエルトン・ジョン、エリック・クラプトンも受章している。
しかし、ウエストウッド氏の前衛精神は失われず、同勲章をバッキンガム宮殿でエリザベス2世女王から授与された直後、記者たちの前でスカートをめくり上げ、下に何もはいていないことを証明してみせた。93年3月のロンドン・コレクションではコンドームを何個もつけた帽子をモデルにかぶらせ、バイブレーターを腰に着けさせて、観客を驚かせた。
93年、レディースラインをクチュール的なファーストラインの「ヴィヴィアン・ウエストウッド・ゴールドレーベル」と、プレタポルテのセカンドライン「ヴィヴィアン・ウエストウッド・レッドレーベル」に分けた。96年からメンズライン「ヴィヴィアン・ウエストウッド・マン(MAN)」を、98年からは過去のコレクションをアレンジした「アングロマニア」を展開している。
92年からアンドレアス・クロンターラー(Andreas Kronthaler)氏と結婚している。クロンターラー氏は25歳年下。結婚式の時点でウエストウッド氏は52歳だった。クロンターラー氏はウエストウッド氏がウイーンの大学でファッションを講義したときの教え子。後にウエストウッド氏がその技術を買って、アシスタントとして雇った。ウエストウッド氏が考案したタータン柄「Mac Andreas」は夫の名前から名付けられた。
[現在のデザイナー]
ヴィヴィアン・ウエストウッド氏
[キーワード]
パンク、アヴァンギャルド、セックス・ピストルズ、オーブ、ボンテージ
[魅力、特徴]
パンキッシュなテイストとクラシックな上品さを兼ね備えた、他に類のないブランド。日本では女子高生が好んで着ているイメージがありますが、海外では大人も好んで着ています。
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